研究概要 |
【目的】我々は角膜、心筋等の分野で臨床応用されている細胞シートの軟骨損傷治療への適用を検討している。本研究の目的は温度応答性培養皿を用いて作製したヒト軟骨細胞シートの特性を明らかにすることである。 【方法】患者10人の承諾を得て膝前十字靭帯再建術の顆間形成の際に採取した軟骨を酵素的に処理して細胞を単離した。実験に際し、以下の3群を作製した。1.従来の培養皿での単層培養群、2.温度応答性培養皿を用いて作製した細胞シート群、3.3層に積層化して更に1週培養した積層化シート群である。形質発現や接着因子等の遺伝子発現状況を網羅的に確認するためcDNAマイクロアレイを実施し、その後、有意差を認めた遺伝子群に関してアルタイムPCRを実施し群間比較を行った。 【結果および考察】軟骨細胞シートは、積層化することでII型コラーゲンとアグリカンの1.5倍以上、SOX9の2倍以上の統計学的有意な発現増加が確認され、形質発現を維持し得ることがわかった。またFibronectinとGap43の2倍以上の有意な発現増加も認め、十分な接着性とバリア機能も保持していることが推察された。さらに、マトリックス変性助長に関与し、変形性関節症発症にも関与が指摘されているMMP-3,MMP-13,ADAMTS5等の発現が積層化シートでは一様に有意に抑制されることを確認した。以上より、積層化シートは形質発現を維持しながら、軟骨損傷部からのプロテオグリカン流出を阻止し、Catabolic factorから損傷部を保護することで軟骨修復に寄与するものと考えられた。 【結論】ヒト軟骨細胞シートの特性をmRNA発現レベルで明らかにした。軟骨細胞シートは優れた接着性と軟骨保護作用を有し、関節軟骨修復に寄与すると考えられた。
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