研究概要 |
悪性腫瘍の転移は、がん患者の生命予後を直接左右する因子であり、転移の制御は悪性腫瘍の克服に是非とも必要な戦略である。近年、低酸素状態や細胞内の高カルシウム状態の際に発現するCap43という蛋白質がいくつかの癌細胞や癌周囲の組織で重要な役割を果たしていることが示唆されているが、その作用機序などはまだはっきりと分かっていない。今回我々は骨肉腫細胞を用いて、Cap43がいかにして肉腫の分化・転移に関わっているかを解明した。また乳癌細胞を使用しCap43が骨転移の発生に与える影響を検討した。3種類の骨肉腫細胞株におけるCap43の発現をRNAレベルとタンパクレベルで観察した後に、それぞれの細胞のCap43発現をsiRNAにて抑制することにより、細胞分化のマーカーであるosteocalcinの発現の抑制を認めた。さらに分化誘導因子であるvitamin D3,BMP-2の刺激により細胞分化が促進されると同時にCap43の発現が低下することが確認された。また細胞がmatrigelを浸潤することでCap43の発現抑制が認められた。今回の我々の研究において、Cap43の肉腫における役割が解明されれば、Cap43の抑制もしくは導入による転移の制御という生命予後に直結する分子標的治療法につながる可能性が期待される。 次に我々は乳癌骨転移モデルを作成し、骨転移におけるCap43の作用を検討した。乳癌細胞mA-MB231にCap43siRNAをtransfect ionすることによりCap43抑制株を作成し、マウス骨転移モデルにおける親株との転移能の変化を比較検討した。親株と3種類の抑制株(Mock,si-12,si-20)のMDA-MB231細胞におけるCap43の発現率をWestern blotting法にて確認後、それぞれをマウスの左心室に注入し、骨転移の形成をX線および病理学的に評価した。また骨転移関連因子のmRNAの発現をreal time PCRにて確認した。親株、Mock株では骨転移が認められたが、si-12,si-20では明らかに骨転移能が抑制されており、MMP-1,-3,-13の発現が低下していた。Cap43は乳癌骨転移モデル系において骨転移を誘導している可能性が示唆された。
|