間葉系組織には未分化幹細胞が存在し、組織の恒常性と損傷時の修復に寄与している。膝関節内の重要な構成体である関節軟骨や半月板等が自然修復する能力に乏しいことは、修復に寄与する幹細胞の絶対数が乏しいことに起因するもの推察される。関節内の組織損傷がおこると関節内の間葉幹細胞は増加し、その細胞は損傷部へ遊走・生着し、修復に関与すると考えられる。しかし関節液中の間葉幹細胞の数は修復を促進するほどの数にまでは通常増えない。そこで間葉幹細胞を十分な数、関節内注入することにより、膝関節損傷部位に大量の幹細胞が生着し、組織修復が促進される可能性がある。 骨髄以外の間葉組織からも間葉幹細胞が分離できる。骨髄液由来の場合、動物種による差異が大きく、詔歯類ではヒトと比較し増殖や軟骨分化能が劣り、in vivo研究を難しいものとしている。幹細胞を使用した再生医療を開発するにあたり動物実験は不可欠であり、増殖・分化能が高い幹細胞を用いることがin vivo研究を成功させる上で重要である。今回、ラットの5種類の間葉系組織を採取し、収量、増殖能、分化能を比較検討し、それぞれの細胞の特性を明らかにした。 ラットから骨髄液、滑膜、骨膜、脂肪、筋肉を採取し、間葉幹細胞を分離・増殖させた。コロニー形成率及び1コロニーを構成する細胞数は、骨髄液よりもその他の間葉系組織由来のものが優れ、特に滑膜由来のものは最大であった。P1細胞で増殖能を検討すると、いずれの細胞も低密度で播種するほど高い増殖を示したが、組織毎で比較すると滑膜由来のものが最大であった。軟骨、脂肪、骨分化能を検討すると、滑膜、骨膜、脂肪、筋肉由来のものは骨髄液由来のものと比較して遜色ない多分化能を有していた。その中でも滑膜由来のものは、特に軟骨分化において他の組織由来のものよりも優れていた。 ラットの骨髄、滑膜、骨膜、脂肪、筋肉の各間葉系組織から高い増殖能と多分化能を有する幹細胞が採取できた。そのなかでも滑膜由来のものが最も増殖能に優れ、高い軟骨分化能を示した。ラットを用いる軟骨再生の研究では、滑膜由来の幹細胞を使用することが有用と考えられる。本研究は滑膜由来幹細胞の大量関節内注入による関節内組織修復促進を進めるための重要な基礎的データとなる。
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