関節内組織修復促進を目標とし、滑膜間葉幹細胞の有用性とその臨床応用の可能性に関して検討した。 (1)ラットの5種類の間葉系組織を採取し、収量、増殖能、軟骨分化能等を比較した。骨髄、滑膜、骨膜、脂肪、筋肉から高い増殖能と多分化能を有する幹細胞が採取できたが、そのなかでも滑膜由来のものが最も増殖能に優れ、高い軟骨分化能を示した。 (2)ヒトの線維性滑膜、脂肪性滑膜、皮下脂肪を若年者と高齢者から採取し、間葉幹細胞を分離し、増殖能、分化能等の特性を比較した。線維性滑膜と脂肪性滑膜は同等の増殖・軟骨分化能を示した。高齢者由来のものも、若年者と同等の増殖・軟骨分化能を示した。 (3)未分化滑膜幹細胞を軟骨欠損部に移植することにより、軟骨細胞に分化するか検討した。家兎の軟骨欠損部に移植した滑膜幹細胞は環境に応じて軟骨細胞に分化し、軟骨修復が促進された。 (4)ヒト前十字靭帯再建術前後の関節液中に存在する間葉幹細胞の経時的変化と、家兎の膝関節に間葉幹細胞を注入しその後の細胞挙動を解析することにより、関節液中の間葉幹細胞の動態や特性を明らかにした。靭帯損傷後あるいは靭帯再建術後、滑膜間葉幹細胞に類似する幹細胞が関節液中に増加し、靭帯損傷部に接着する機構の存在が示された。 (5)滑膜組織を自家関節液で培養しexpandする接着細胞を解析した。変形性膝関節症の関節液には、滑膜から関節内に間葉幹細胞を動因する効果があり、その一因をTGFβが担っていることを示した。 (6)ラット滑膜間葉幹細胞を移植腱骨孔内に移植することにより、移植腱骨孔治癒が促進されるか検討した。滑膜幹細胞を移植したものは、コラーゲン線維量とSharpey線維が有意に多かった。 これらの結果は関節内組織修復を促進させるのに、滑膜由来間葉幹細胞の使用は生理的で有用であることを示している。さらに低侵襲で、効果が確実な細胞移植方法の開発を現在行なっている。
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