研究概要 |
今回の実験の目的は,軟骨欠損部中央に有効に増殖細胞(骨髄間葉系幹細胞)を誘導するために,新しい濃度勾配を有するコラーゲンゲルを作成し,軟骨全層欠損の修復に対する有用性を検討する事とした。 約13週齢の日本白色家兎を使用して,大腿骨膝蓋窩に直径5mm,深さ5mmの全層欠損を作成し,コラーゲンは0.3%のtype1コラーゲンを用いた。任意の濃度でゲル化させ,0.18%のコラーゲンゲルの中心上方部に0.24%コラーゲンゲルを挿入し,33%濃度勾配コラーゲンゲル(33%勾配群)を作成した。同様の方法で中心部に0.27%コラーゲンを挿入して50%濃度勾配コラーゲンゲル(50%勾配群)も作成し,さらに対照群として,勾配のない0.18%コラーゲンゲルを移植するコントロール群も作成した。この3群のコラーゲンをランドマイズドに先ほどの全層欠損に移植し,手術後1週,2週,3週,4週,8週,12週目に屠殺した。評価はBrdU陽性細胞数を欠損部の中心と辺縁とで比較し,トルイジンブルー染色で再生組織のスコアリングを行い,またtype1,type2collagenの免疫染色も行った。さらにIn-vitro studyとして,濃度勾配差に対する骨髄間葉系幹細胞の遊走性をTranswe11を用いて検証した。 結果は33%勾配群において,欠損部の中心部で増殖細胞が多く観察され中心部への細胞誘導効果が認められた。とくに術後2週目で有意差をもって欠損中心部に多くの増殖細胞を誘導することに成功した。また組織学的評価では33%勾配群で術後4週,8週で組織学的に優れた軟骨修復が得られた。In-vitroにおけるコラーゲンの濃度差に対する骨髄間葉系幹細胞の遊走性においても,適切な濃度差が存在することが判明した。濃度勾配を有するコラーゲンは欠損部中心への増殖細胞の誘導能を有し,関節軟骨再生への臨床的有用性が示された。
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