研究概要 |
本研究の目的は研究代表者が開発したLα-DPPCリボソームを用いた関節内投与型ドラッグデリバリーシステムの臨床応用に向けた研究である。本システムの概要は以下である。Lα-dipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)を用いてリボソームを作成し、内部に関節軟骨に作用する生体物質、Hyaluronan, Glycosaminoglycan等を封入することにより関節内投与型ドラッグデリバリーシステムを作成する。関節注入の手技により薬剤封入Lα-DPPCリポソームを関節内に投与し、Lα-DPPCの関節潤滑機能の改善と、薬剤徐放効果により、軟骨再生促進作用を長期間持続させることを目的とする。 実験)研究用中空リポソーム(日本油脂製)を用いて、関節内投与型ヒアルロン酸ナトリウム封入Lα-DPPCリポソーム製剤を作成した。対照としてヒアルロン酸ナトリウム(生化学工業社製)1.0%を用いた。雄性ウサギ(SPF, Kb1: JW,社)を用いてリポソーム化HA(左)又はHA(右)を膝関節腔内に単回投与した。投与後1,7及び14日目に膝関節液を採取しHA濃度を測定した。残余の滑膜組織及び大腿骨・脛骨の関節軟骨のHE染色及びAlcian青(pH2.5)染色標本を作成し、光学顕微鏡にて薬剤の組織反応性について観察した。 結果)本実験に用いた全てのウサギに経過中体重変動などの異常は認めなかった。関節内無処置のウサギにおいて、リポソーム化HA投与側では、投与後1日の採取関節液濃度はHA投与側の採取関節液濃度の2倍の濃度であった。投与後7日目及び投与後14日目の採取関節液濃度及び総量はリポソーム化HA投与側とHA投与側はほぼ等しい値であった。滑膜組織及び大腿骨・脛骨の関節軟骨には炎症細胞の浸潤等の炎症所見を認めなかった。 考察)本薬剤は、変形性関節症罹患もしくは関節軟骨欠損患者の1)関節潤滑動態を改善しつつ、2)軟骨修復・再生に有効に作用することを目的に開発したものである。今回の研究の結果である投与後早期のHA濃度の上昇は本薬剤の目的とする、関節液内の高濃度を維持するという薬物動態を示しているが、7目、14日後にまでその効果を持続できなかったという事実は、本リポソームの薬剤徐放性が有効に働いていない可能性がある。これは、今後の検討課題である。本薬剤の関節内組織への炎症誘導性に関しては、滑膜組織及び関節軟骨組織への炎症細胞の浸潤を認めなかったという結果は、本薬剤の臨床応用に向けての大きな第一歩となる実験結果が得られたと言える。
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