研究概要 |
高圧酸素療法は、潜函病、ガス壊疸、一酸化炭素中毒に対する治療法の第一選択として知られているが、近年、スポーツ外傷を中心とする軟部組織損傷に対する治癒促進効果が注目を集めている。しかし、基礎的な検討が不十分なまま臨床面が先行してしまい、その効果についても相反する報告がなされている。この理由として、圧力や治療時間、治療開始時期などの条件が報告ごとに様々であることが考えられ、本研究では、靭帯損傷に対する高圧酸素療法の至適条件、特に治療開始時期について検討した。さらには、その知見を踏まえて骨折に対する骨癒合促進効果を検討した。 全ての実験は、我々の先行研究((Mashitori H,Tamai K:Clin Orthop 2004)と同じく2.5気圧、2時間の条件で高圧酸素療法を行った。靭帯損傷に対しては、ラットの膝内側側副靭帯を3mm幅で切除したモデルを使用した。評価はreal-time PCRによるI型プロコラーゲン遺伝子の発現量の定量、引っぱり強度試験、組織学的観察により行った。実験により明らかとなったのは、高圧酸素療法は、1)創傷治癒過程の早期の部分により大きな影響を与えるため、2)受傷直後より開始した方が効果が大きく、他方で3)長期間継続して行う意義は少ない。さらにヒト前十字靭帯より採取した線維芽細胞を用いたin vitroの実験から、高圧酸素療法によって細胞のI型コラーゲン合成活性が高まる効果よりも、再生に関与する細胞の増殖が促される結果、治癒促進効果が得られることが示唆された。さらに、ラットの大腿骨に骨折モデルを作製し、骨折治癒課程における高圧酸素治療の影響も検討した。4週間連続して高圧酸素療法を行いその効果をX線画像、曲げ強度試験で評価した。現時点では、高圧酸素を行うと早期に仮骨形成を認めるが、最終的な強度の増強にはつながらないとの知見を得ているが、さらにデータを集積する予定である。
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