研究概要 |
骨粗鬆症は21世紀医療の重要課題のひとつである。申請者はこれまでに体系的な遺伝子多型解析を行うことにより骨粗鬆症の発症に関する遺伝的要因の解明に取り組み、骨粗鬆症の発症、進展および骨量減少機序に関与する遺伝子を探索してきた。384人、および576人からなる2つの集団サンプルを用い、1,222の候補遺伝子から選出したアミノ酸置換をきたす1,419の遺伝子多型と骨密度との関連を解析し、ゴナドトロピン放出ホルキン(GNRH1)遺伝子多型Trp16Ser(16番目のアミノ酸tryptophan(Trp)がserine(Ser)へと変異)と骨密度の関連を明らかにした。ゴナドトロピン放出ホルモンは視床下部-下垂体系において重要な役割を担っており、骨密度への関与が大きいエストロゲンの分泌調節にも深く関わっていることから、生理学的な機能からもGNRH1遺伝子多型Trp16Serと骨代謝の関わりが強く示唆された。GNRH1遺伝子多型Trp16Serはゴナドトロピン放出ホルモンのシグナルペプチドに存在する多型であり、疎水性のTrpから親水性のSerへのアミノ酸置換は、ゴナドトロピン放出ホルモンが細胞質で翻訳され、リボゾームの膜を透過する過程(translocation)に影響することが予想された。しかし、追加した集団サンプルで関連を見出すことはできなかった。また、遺伝子多型Trp16Serによるゴナドトロピン放出ホルモン分泌効率への影響を、これまでのところ明らかにすることはできていない。この多型は頻度の高い遺伝子多型であり、大きな機能変化をきたす多型ではなく、感度の高い方法を新たに開発する必要があると考えられる。
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