研究概要 |
本実験では、幼若期における全身麻酔薬投与が成長後の海馬機能に与える影響をin vivoで調査した。生後7日目のラットにPentobarbital(似下Pento, 10mg/kg and 20mg/kg)を腹腔内投与し、成長後(生後10-12週)の海馬機能を電気生理学的ならびに行動学的(Open-field test;以下OFT)に測定した。電気生理学的検討では、麻酔下ラットの海馬に経頭蓋的に電極を挿入し、Schaffer側枝の刺激によるCA1領域における集合スパイク電位を測定した。高頻度刺激による集合スパイク電位の増加はシナプス長期増強(Long-term potentiation;以下LTP)と呼ばれ、記憶・学習の電気生理学的基盤とされている。本実験では、海馬CA1領域におけるLTP形成は、幼若期Pento投与により著明に抑制された。またOFTでは、ボックスにラットを放ち、水平移動量と垂直移動量とを測定した。これらの値はそれぞれ総運動量と探索行動量の指標とされており、特に探索行動量(垂直移動量)は海馬機能と関連すると報告されている。幼若期Pento投与により、OFTにおいて総運動量に変化は認められなかったが、探索行動量は減少する傾向が示された。以上の結果より、幼若期Pento投与により、成長後の海馬機能が低下している可能性が示唆された。一方で、幼若ラットへのPentoの腹腔内投与は著明な呼吸抑制をまねき、数時間に及ぶ著明な低酸素血症ならびに全身性アシドーシスをきたした(Control; Pa02 113.4±6.0mmHg, pH7.43±0.01,Pento20mg/kg;Pa02 65.3±10.6mmHg,pH7.11±0.09,p<0.01)。幼若ラットへの全身麻酔による成長後の神経学的異常を検討する際には、呼吸抑制作用による低酸素等の影響を加味する必要があると考えられた。
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