平成20年度は脊髄後角膠様質細胞と大脳皮質一次感覚野細胞から膜電流固定下のin vivoパッチクランプ記録を行い、後肢の痛み刺激で誘発される活動電位の発生頻度に対する1MACイソフルランの影響を観察した。膠様質細胞及び大脳皮質一次感覚野細胞の膜電位を連続記録し、ラットの1MAC相当の濃度のイソフルラン(1.5%)の吸入投与及び1.5%イソフルランを含んだクレブス液の脊髄表面への灌流投与を行った。 膜電流固定下では脊髄後角膠様質細胞と大脳皮質一次感覚野細胞の静止膜電位は約-65mV付近であり、脊髄後角と大脳の両方の細胞で後肢に刺激を与えなくても発生する自発性興奮性シナプス後電位(EPSP)が記録された。後肢皮膚の痛み刺激(pinch刺激)により、両方の細胞に自発性EPSPより振幅の大きい連続するEPSPが誘発され、連続する活動電位が発生した。この活動電位は痛み刺激をしている間は減弱することはなかった。イソフルラン(1.5%)の吸入投与を開始して10分後に同様の痛み刺激を与えるとやはり投与前と同様の連続した活動電位が記録され、その発生頻度には有意な変化はなかった。1.5%イソフルランを含んだクレブス液の脊髄表面への灌流投与によっても同様の結果が得られた。 以上、平成20年度の結果と平成19年度の結果の一部から、イソフルランは痛み刺激による抑制性伝達には若干の増強効果があるがその作用は小さいものであり、脊髄後角膠様質細胞と大脳皮質一次感覚野細胞の痛み刺激による興奮性にはほとんど影響しないことがわかった。従って、イソフルランは少なくとも臨床濃度では脊髄後角から脳への痛覚伝達を抑制することができず、イソフルランの不動化作用は脊髄の後角以外の部位に対する作用であることがわかった。
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