研究概要 |
胸腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術など胸部で大動脈遮断が必要な手術における重篤な合併症の一つに対麻痺があり,その発生率は6.6〜8.3%と言われている.近年,心筋細胞において,虚血再灌流の直後に短時間の虚血と再灌流を繰り返すことにより心筋細胞の壊死が減少することがいわれ,ポストコンディショニングと名付けられた.本研究では,脊髄の虚血再灌流障害に対してポストコンディショニングが有効であるかを検証した.Wistar系雄性ラットを用い,大腿動脈よりバルーンカテーテルを挿入し,左鎖骨下動脈分枝直下でバルーンを拡張させることにより脊髄虚血モデルを作成した.ラットを無作為に2群に分け,コントロール群では12分間の脊髄虚血を行い,ポストコンディショニング群では12分間の脊髄虚血解除後に20秒間の再遮断・20秒間の再灌流を3サイクルをおこない,ポストコンディショニングとした.虚血再灌流後5日間の下肢の運動機能を評価し,その後,腰椎レベルでの脊髄標本を作製し観察した.虚血再灌流後0.5, 1, 2, 3, 4, 5日での下肢の運動機能は,何れの時点でもポストコンディショニング群で有意に良かった.脊髄のHE染色では,コントロール群では白質の空胞化が目立ち,ニッスル染色でも細胞の死滅が目立った.一方ポストコンディショニング群では,これらの変化が少なかった.以上より,脊髄虚血による対麻痺に対し,ポストコンディショニングはその発生を予防できる可能性が示唆された.
|