研究概要 |
運動誘発電位は,脊髄機能モニターとして広く用いられているが,近年運動誘発電位が正常であっても痙性麻痺が発生した症例が報告されている.このような症例では,脊髄レベルでの抑制性介在ニューロンの障害が原因であると考えられる.大脳皮質における抑制性介在ニューロンの評価には,誘発電位からフーリエ解析により分離される高周波成分が利用される.脊髄においても運動誘発電位に含まれる高周波成分が,抑制性介在ニューロン機能を反映し,痙性麻痺の診断に有用であるか否かを検討した.ラットを対象として,大動脈をバルーンカテーテルにより閉塞して脊髄虚血とするモデルを作成した.このラットの左運動野に刺激電極を設置し,それぞれ右下腿筋肉,右坐骨神経,硬膜外電極に記録電極を設置した.刺激は,1msの矩形波による5連刺激,2Hz.100回加算として,強度は,閾値の3倍とした.記録波形をフーリエ変換して200Hz以下を低周波成分(運動神経細胞機能を反映),400〜1000Hzを高周波成分(抑制性介在ニューロンを反映)に分離した.基準波形を記録後,11分間の脊髄虚血を負荷し,解除後1時間記録を継続し,続いて24時間麻痺の状態を観察した.実験の結果,下腿筋電図,坐骨神経電位では,低周波と高周波の分離が困難であり,有意な結果が得られなかった.硬膜外電極からは低周波成分に重畳する紡錘形の600Hz帯域の高周波成分が観察された.10匹のラットは,2匹が正常,6匹が痙性麻痺,2匹が弛緩性麻痺を呈した.低周波成分の振幅低下が認められず,高周波成分の最大振幅が50%以上低下した場合と痙性麻痺の発生は,感度80%,特異度80%であった.硬膜外電極による運動誘発電位の記録および解析は,痙性麻痺発生の観察に有用である.
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