西肢切断後には失ったはずの四肢があたかも存在するかのように感じられ、これらを幻肢と呼ぶ。さらには、四肢切断後でなくても神経損傷など体性感覚求心路遮断によっても幻肢は出現する。幻肢には病的な痛みを伴うことがあり、幻肢痛と呼ばれるこのような痛みは患者を苦しめる原因となる。我々は患者の訴える幻肢痛の性質を皮膚表在感覚と関連するような疼痛(例:針で突付かれたような痛み、電気が走るような痛み、灼けるような痛み)と深部感覚と関連するような疼痛(例:幻肢をねじられたような痛み、幻肢がこむら返りしているような痛み)に大別し、鏡を用いたリハビリテーション(鏡療法)による病的痛みの治療では、深部感覚に関連した疼痛は50%以上軽減する一方で皮膚表在感覚と関連するような疼痛はほとんど軽減しないことを明らかにした。幻肢痛患者のほとんど全ての患者は幻肢を随意に運動することができないが、鏡療法後には幻肢を随意に運動することができるようになる患者がいる。さらに、鏡療法によって幻肢の随意運動を獲得した患者は幻肢痛の軽減も得られる傾向にあることを明らかにした。このように幻肢痛の運動発現と深部感覚に関連した疼痛の軽減が関連していることから、我々は、四肢の視覚的情報によって引き起こされる知覚一運動協応の再統合が病的疼痛寛解のメカニズムとして提案している。現在、この知覚一運動協応の再統合が脳のどの部位で行われているかを明らかにすることを目標に光トポグラフィーを用いた脳機能画像研究を行ったが、患者毎に光トポグラフィーでの脳賦活時の活動領域が大きく異なり、また、同様のタスク時の脳賦活領域も評価毎に大きく異なるため、一定の見解を得るには至っていない。
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