研究概要 |
岡山大学は平成10年10月に日本で初めての肺移植を施行し成功して以来、平成19年3月までの9年間に57例(内47例は生体部分肺移植)の肺移植を施行し、生存率は国内外で最高水準にある。我々は麻酔および術後集中治療管理を担当しているが、多くの症例において移植直後から術後数日間にかけて虚血再灌流傷害が原因と考えられる呼吸不全が発生し、1週間〜数カ月の人工呼吸療管理が必要である。残念ながら2例を再灌流傷害に起因する呼吸不全にて失った。この虚血再灌流傷害は肺移植後の死亡原因の大きな一つであり、病態は十分に解明されておらず予防する方法も確立されていない。再灌流肺傷害の発生や増悪の過程において、炎症性サイトカイン(インターロイキン-1,2,6,8,10,18、 Tumor necrosis factor-α (TNF-α)など)と好中球エラスターゼが関与することが示唆されている。我が国における多くの肺移植患者は重篤であり移植に際し人工心肺を必要とするが、人工心肺により炎症性サイトカインやエラスターゼが活性化し臓器障害を増悪させている可能性がある。近年、開心手術において、人工心肺後に体外への水分除去とサイトカインおよび炎症性蛋白の除去を目的として血液濾過法(Modified Ultrafi!tration、 以下MUF)が用いられ始めている。MUFは開心術後の呼吸および循環系の改善が報告されている。しかし、肺移植における使用報告はみられず、効果は解明されていない。 我々の研究目的は,肺移植後の虚血再灌流傷害におけるMUFの効果を移植後の呼吸循環動態と炎症性サイトカイン・好中球エラスターゼの血中濃度変化により判定し、再灌流傷害移植肺の病態と治療効果を検討することであり、平成18年度は8例、平成19年年度は4例の生体部分肺移植を実施し、現在研究成果を集計し解析している。平成18年10月に米国麻酔学会(シカゴ)においてこの研究成果の一部を発表し討議を行った。
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