研究概要 |
背景)悪性高熱症(MH),カテコラミン誘発性心室頻拍、および心不全では,リアノジン受容体(骨格筋型:RyR1,心筋型:RyR2)から異常なCa2+漏出が生じており、その主要な原因としてRyR内のチャネル制御ドメイン[N-末ドメイン(0-600)と中央ドメイン(2000-2500)]間の連関障害が考えられている.最近,我々は,MHの治療薬であるダントロレンが,RyR1のN-末ドメインに結合することによりドメイン連関障害を是正しRyR1機能障害を是正することを報告した.(目的)ダントロレンが,心不全においてもRyR2内のドメイン連関障害を是正することにより不全心筋細胞機能を改善させるか否かについて検討した.(方法・結果)高頻度右室ペーシングにより犬心不全モデルを作成し,左室心筋から筋小胞体(SR)および心筋細胞を単離精製し,以下の実験を行った.a)Ca2+漏出実験:Ca2+蛍光指示薬であるfluo-3を用い,SRからのCa2+漏出を測定した,不全心筋SRでは,SRからのCa2+漏出が観察されたが,ダントロレン存在下では不全心筋SRからのCa2+漏出は濃度依存性に抑制された.b)蛍光消退実験:RyR2のN-末ドメインを特異的にMCAで蛍光標識した.この蛍光に対するChemical quencher(QSY-BSA)のaccessibilityを評価することで,チャネル制御ドメインのzipping-unzipping状態を定量化した.正常心筋では,ドメイン連関はunzipping状態であったが,心不全心筋ではすでにunzipping状態であった.ダントロレンは,不全心筋RyR2のドメイン連関を濃度依存性にunzipping状態からzipping状態に修復した.c)単離心筋細胞の機能評価:ダントロレンは,不全心筋細胞のcell shorteningとCa2+ transientを著明に改善し,diastolic Ca2+ sparkを抑制した.d)単離心筋細胞の生存率:培養不全心筋細胞の生存率は、4日後には、15%にまで低下したが,ダントロレン投与群では,80%まで改善した,(結語)不全心筋において,ダントロレンは,RyR2のドメイン連関障害を是正することにより,RyR2からのCa2+漏出を抑制し,心筋細胞機能異常を改善させることが示された.
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