全身麻酔の導入や維持などに用いられてきた静脈麻酔薬エトミデートの直接血管作用をラット腸間膜動脈で検討し、その成果を論文に発表した。エトミデートは、若齢ラットでは、ノルエピネフリン(NE)収縮やKC1収縮を、内皮存在下では低濃度(3μM)で増強し高濃度(〓10μM)で抑制したが、内皮非存在下では増強することなく一貫して抑制した。そのような増強は、一酸化窒素、内皮由来過分極因子、シクロオキシゲナーゼ、リポキシゲナーゼ、アンギオテンシンII、セロトニン、エンドセリンの経路を抑制しても同様に観察されたが、高齢ラットでは消失した。Fura-2負荷内皮除去標本では、NEやKC1による細胞内Ca^<2+>濃度の上昇を抑制した。また、抑制は細胞内Ca^<2+>貯蔵部位枯渇後にもほぼ同様に観察された。一方、細胞内Ca^<2+>貯蔵部位のCa^<2+>取り込み機構やCa^<2+>放出機構には影響を与えなかった。また、NE刺激下やKC1刺激下において、低濃度ではCa^<2+>-張力関係に影響を与えなかったが、高濃度(〓30μM)では有意に抑制した。以上より、エトミデートは、内皮依存性増強作用と内皮非依存性抑制作用によりNE収縮やKC1収縮に影響を及ぼすと考えられた。増強作用の機序は明らかではないが、加齢に伴い障害される信号伝達経路の関与が疑われる。抑制作用は細胞内Ca^<2+>濃度上昇の抑制や収縮蛋白系Ca^<2+>感受性の抑制に起因すると推察される。 さらに、ラット肝動脈、腎動脈、腸間膜動脈で、NE収縮に対する揮発性麻酔薬イソフルランの効果を検討した。イソフルランは、臨床濃度で、腸間膜動脈ではNE収縮を内皮依存性に増強したが、肝動脈や腎動脈では内皮の有無にかかわらず抑制した。 エトミデートやイソフルランは小腸移植術には適さない可能性が示唆された。一方、検討する範囲では、イソフルランの肝移植術や腎移植術での使用は問題とならないと考えられた。 (800字)
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