研究概要 |
本研究では麻酔薬による耽溺性の細胞レベルおよび神経ネットワークでのメカニズム解明の手がかりとすることを目的として、静脈麻酔薬の一つであるプロポフォールが、薬物依存と関係が深いと考えられている腹側被蓋野(ventral tegmental area ; VTA)ドパミンニューロンの興奮性に及ぼす作用をラット脳スライスを用いたパッチクランプ法を用いて検討した。生後14から21日のラットからVTAを含むスライスを作成し0.5から50μMのプロポフォールを潅流液中に加算的に加えて電流固定法および電位固定法を用いて細胞の興奮性を検討した。プロポフォールはGABA受容体を活性化させることから、GABA受容体アゴニストであるTHIP(4,5,6,7-tetrahydroisoxazolo [5,4-c]pyridine-3-ol, 3 and 30μM)を用いて同様の実験を行った。膜電流固定法において0.5から5μMの低濃度のプロポフォールによって8/18個のVTAニューロンが活動電位の発生頻度を増加させた(control : 9.3±4.2 spikes/min, 0.5μM:27.5±10.1 spikes/min, 5μM : 19.0±8.2 spikes/min, washout : 1.8±0.8 spikes/min, p<0.05)。他の10個のニューロンでは活動電位の頻度は不変ないし軽度に減少した(control : 0.75±0.71 spikes/min, 0.5μM : 0.43±0.37 spikes/min, 5μM : 0.06±0.04 spikes/min, washout : almost no spikes, p>0.05)。プロポフォールによって活動電位が増加したニューロンはそうでないものに比べ有意に膜電位が浅く活動電位の頻度が多かった。THIPにおいても同様の結果が得られた。膜電位固定法において低濃度のプロポフォールは有意に内向き電流を増加させ、Kチャネルを抑制している可能性が示唆された。合わせてVTAおよび側座核(NAcc)を含むスライスにおいて潅流液中にドパミンが放出されていることが高速液体クロマトグラフィーによる分析から判明し、プロポフォールにより遊離ドパミン濃度がどのように変化するのかを解析中である。今年度は加えてドパミン放出の量子的分泌を解析するためのセットアップおよびVTAにおけるシナプス伝達を測定するための予備実験を行った。
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