研究概要 |
手術侵襲に伴う末梢神経損傷、それに引き続く炎症反応により、自発性疼痛、痛覚過敏、ならびにアロディニアという特殊で複雑な疼痛状態が引き起こされる。これらの疼痛状態は、通常の鎮痛薬である麻薬や抗炎症薬ではコントロールが難しく、これまでまったく疼痛管理とは関係していないとされているネオスティグミン、アデノシン、クロニジンなどによる薬剤の脊髄、硬膜外投与で緩和されることが明らかとなってきた。近年、本邦でも使用可能となった、α2受容体刺激薬であるデクスメデトミジンは集中治療室での鎮静薬としてその保険適応が認められているが、鎮静作用のほかに鎮痛、抗侵害作用があることが認められている。さらに、デクスメデトミジンには呼吸抑制作用が少なく、気管挿管時にその刺激を和らげ、安定した循環動態を得ることができるため、スムーズな抜管操作を必要とする、脳神経外科や心臓に疾患を持った患者さんの麻酔に有用であると考えられる。今回、デクスメデトミジンの術中使用が術後鎮痛状態に与える影響を調べ、硬膜外ネオスティグミン投与との相互作用について検討した。 対象は婦人科良性疾患開腹患者で、デクスメデトミジンは麻酔導入直後より鎮静作用に必要な推奨投与量を手術終了まで持続的に静脈内投与した。一方でネオスティグミンは硬膜外腔に局所麻酔と同時に注入した。麻酔方法は一般的に用いられている硬膜外麻酔併用全身麻酔でいった。術後鎮痛状態は、術後5回、手術終了2,4,6,24,72時間後に視覚的アナログ法で評価した。デクスメデトミジン、ネオスティグミンそのものは術後24時間で鎮痛状態を改善したが、その差は対照群に比べ有意なものでなかったが、その両者の投与により著名に術後鎮痛状態に改善した。これらの結果はデクスメデトミジン、ネオスティグミンの併用が有効な術後鎮痛方法となることを示しているが、更なる改善が必要であることを示唆している。
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