研究概要 |
虚血性神経細胞死誘発に関与すると思われるアストロサイト内のカルシウムホメオスタシスを司るNa+/Ca2+交換系(NCX2)と脳内フリーラジカル、カルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系およびミトコンドリア機能不全との連関に焦点を当て、神経細胞死誘発において重要な役割を担う細胞内Ca2+動態と他の因子との関係を明らかにし新規治療法開発への糸口を見出すために以下の2点を中心に解析を行った。1)脳虚血時の細胞内カルシウム流入におけるアストロサイトNa+/Ca2+交換系(NCX)とカルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系の関係を解析するためにNCX交換系遣伝子knockout(KO)マウスの海馬スライスを用いた低酸素負荷による神経細胞内とアストロサイト内Ca2+動態を測定し、NCX交換系とカルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系との連関を検討した結果、NCXKOマウスの海馬スライスの脳細胞内Ca2+濃度はratioで海馬CA1(NCXKO:1.45±0.55vsWild:0.88±0.48)CA3(NCXKO:1.41±0.68vsWild:0.95±0.42),DG(NCXKO:1.39±0.42vsWild:0.82±0.51)で低酸素無グルコース下では海馬CA1(NCXKO:1.71±0.46vsWild:1.22±0.51)CA3(NCXKO:1.68±0.58vsWild:1.28±0.39),DG(:NCXKO:1.66±0.36vsWild:1.17±0,49)とNCXKOマウスでは細胞内Ca2+がWildマウスより高かった。虚血負荷後の細胞内Ca2+の増加の割合は両群で有意な差を認めなかった。次に、2)ミトコンドリア機能不全に伴うMPTを介した脳内ミトコンドリア機能不全誘発とNa+/Ca2+交換系の介在の有無についてNa+/Ca2+交換系遺伝子knockout mouse脳内から抽出したミトコンドリアを用いてCa2+overloadによるミトコンドリアの膨化実験を行った。Ca2+overloadによるミトコンドリア機能不全の誘発とMPTを介したミトコンドリアの膨化はNCXKOマウスとWildマウスの両群間で有意な差を認めず、シクロスポリンAによるMPT抑制効果においても有意な差を認めなかった。 以上より、NCXは細胞内のCa2+の汲み出しに関与し、これらの遺伝子を改変したマウスでは細胞内のCa2+濃度が通常より高いが、虚血による増加はWildマウスと同様で細胞内Ca2+増加を制御する別の系が代償している可能性が示唆された。MPTに伴うミトコンドリアの膨化は両群で差がないためNCXとMPTとの関与は今回の実験からは見出せなかった。
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