本来正常マウスにおいて脳内に存在するmdr1由来P-gpが虚血という事象にいかに反応するか、ノックアウトマウスと比較をしながら追跡した。結果、Bcl-2、Baxなどの主にミトコンドリアを経由するアポトーシス関連物質において、mdrlaノックアウトマウスの方がワイルドタイブマウスと比較して抗アポトーシス的経過を示した。一過性脳虚血におけるP-gpの発現の経時的変化を観察すると、ワイルドタイプマウスでは虚血直後より脳内にて存在が確認されたことから虚血後再灌流早期より何らかの働きをしていた可能性がある。一方、我々はサイクロスポリンA(CsA)はP-gpにより脳組織内への浸透が困難となっている事実を背景として、オンダンセトロンを併用してCsAの脳保護効果の増強できるかを検討し、vehicle群と比べてCsA単独投与群やオンダンセトロン単独投与群は脳のダメージに有意な違いはなかったが、CsAとオンダンセトロンの併用投与群ではダメージが有意に減少を示した。これはCsAの脳保護効果またはP-gpへの負荷が脳梗塞ダメージに影響したのではないかと示唆された。本研究での研究成果より、(1)mdrla由来P-gpは血液脳関門としての働きとは別に、脳虚血によって生じるアポトーシス的作用に影響を与えている、(2)P-gp依存性の脳保護剤を活用する上で、その保護剤以外のP-gpに対する基質物質や阻害物質を併用することが結果的に脳保護作用をより有効にさせる、などが示唆された。
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