慢性的な痛みを生ずる疾患の一つにニューロパチックペインがある。ニューロパチックペインは様々な原因によって神経に障害が生じた結果起こる痛みの症候群である。そのメカニズムは中枢と末梢の両サイドからアプローチされてきた。侵害受容の一次感覚ニューロンに含まれる神経ペプチドのうち、SP(サブスタンスP)やCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、疼痛を増強する神経修飾物質として知られている。これらの侵害受容ニューロンは脊髄後角の表層に分布し、それらの情報はI層及びV層の投射ニューロンにより上位中枢へと伝えられる。今回、我々はラット脊髄の新鮮スライスを用いたパッチクランプ法により、SP/CGRPの後角ニューロンに対する膜電位応答の解析を進めた。SP/CGRPをスライスに作用させると後角深層ニューロン(III〜VI層)の約40%において、非常にゆっくりしたinward currentやEPSPの増加が観察された。前者の応答はmono-synaptic、後者はpoly-synapticな成分であると考えられる。また、一部ではIPSPの増加も記録されたが、これらの意義については不明である。また、抑制性の神経修飾物質として知られているSRIF(ソマトスタチン:成長ホルモン抑制ホルモン)の応答についても測定したところ、約20%の深層ニューロンにおいて、非常にゆっくりしたoutward currentを記録することができた。今後、これらのペプチドを手掛かりにさらに解析を進め、疼痛を中心とした脊髄局所神経回路のモデルを提示し、神経因性疼痛との関係について検討する。
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