研究概要 |
【目的】前立腺癌の罹患率にはかなりの日欧米間格差があるといわれている一方で、1980年代の日本人における剖検検体を用いた検討において、浸潤型の潜在癌の頻度は欧米人の1/2と高いことが知られている。臨床癌の格差には、潜在癌が臨床癌へ進展する過程において何らかの食環境が影響している可能性がある。現時点での日本の前立腺癌の罹患率男性癌の6番目であり、死亡率は8番目であるが、2020年に肺癌に次いで2番目の罹患数となり、2000年の死亡率と2020年の死亡率の予測比は2.8倍になると予測されている。将来我が国で急増する前立腺癌の対策として、食生活環境の観点から日本人の微小な潜在癌の臨床癌への進展について研究することは重要である。近年・将来の本邦における食生活の欧米化が一員と考えられている前立腺癌の増加傾向を見た場合、原因となりうる食環境因子を分子予防医学的見地から解明することは急務であると考えられる。今回、前立腺癌症例の癌発見以前の検診受診時の血清中のリポタンパクプロファイリングと癌診断時のリポタンパクロファイリングの変化を比較し、さらには対照として非癌症例の検診受診時のリポタンパクプロファイrングを比較することにより、前立腺癌発癌に関連性が強い血清リポタンパクを見いだすことを目的とした。 【対象・方法】対象は、1992年〜2004年の前立腺癌検診受診者の中から、少なくとも3回の検診を受診し前立腺癌が診断された20症例(症候群)と、年齢(±2歳)をマッチさせた非前立腺癌症例40例(対照群)である。リポタンパクプロファイリングは、LipoSEARCH(株式会社スカイライト・バイオテック)を用いておこなう。凍結保存血清(-70℃保存)を用い、症候群においては初回検診受診時、癌診断時のリポタンパクプロファイリングをおこない、対照群は最新の検診受診時の血清リポタンパクプロファイリングをおこなう(計80検体)。症候群と対照群の血清リポタンパクプロファイリングを比較し、前立腺癌に関係する血清リポタンパクを分析する。 【結果】前立腺癌症例のコレステロール値は、初回診断時(診断前)が115.6mg/dlであったのに対し、診断時は147.1mg/dl、中性脂肪は、診断前が47.1mg/dlに対し、診断時は64.1mg/dlであった。リポタンパクのサブクラス解析では診断前に対し診断時に有意に上昇していたコレステロール分画はvery small VLDL, large LDL, medium LDL, small LDL, very small LDL, Large HDL, medium HDL, small HDLであった。一方、中性脂肪の分画ではmedium VLDL, small VLDL, large LDL, medium LDL, small LDL, large LDL, large HDL, medium HDL and small HDLが、診断時に診断前に比べ有意に上昇していた。 【結語】診断時において有意に上昇していたコレステロール及び中性脂肪の分画は、前立腺癌の増殖促進に関連している可能性が示唆された。
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