〔方法〕ヒト羊膜はインフォームドコンセントが得られた予定帝王切開妊婦より提供を受けた。実験はラットを用い、(1)膀胱部分切除単独群、(2)膀胱部分切除後SIS利用膀胱拡大術群、(3)膀胱部分切除後ヒト羊膜利用膀胱拡大術群の3群において以下の3点につき検討を行った。1.術後1、3、6ヶ月に、形態学的に尿路上皮をUroplakin-3、平滑筋をsmooth muscle actin、神経組織をS-100-astrocyte marker、そしてヒト羊膜をanti-human nuclei monoclonal antibodyを用いた免疫染色法にて観察した。2.術後3、6ヶ月に、organ bath内での等尺性張力実験において、ムスカリン受容体作動薬および経壁電気刺激に対する拡大膀胱切片の収縮反応を検討した。3.術前および術後2、4、8、16週に、膀胱内圧検査を行い、膀胱容量・膀胱コンプライアンスを測定し、羊膜またSISによる膀胱拡大効果を検討した。〔結果と考察〕1.組織学的には免疫染色法により、術後1ヶ月の羊膜およびSISによる拡大膀胱粘膜に尿路上皮が確認できた。筋層は術後1ヶ月では幼若な筋線維のみが確認できたが、3ヶ月、6ヶ月と経過するうちに拡大膀胱周囲すなわち正常膀胱組織から伸びるように、平滑筋組織の再生が認められ、神経線維も散見された。羊膜由来細胞を確認したが同細胞が平滑筋、神経組織に分化した所見は認められなかった。これらの所見より、羊膜、SIS移植組織に認められた再生組織は正常周囲組織からの伸張によるものと考えられた。2.両群とも等尺性張力実験にて、ムスカリン受容体作動薬および経壁電気刺激に対する収縮反応を認めた。しかし、正常膀胱組織における収縮反応と比べると両群ともに弱く、特に経壁電気刺激に対する反応は微弱であることより、神経線維の再生は不十分であることが考えられた。3.膀胱内圧検査では羊膜、SIS拡大術群ではともに、術後2週より膀胱容量、コンプライアンスとも術前と比較し同等で、以後次第に増加した。しかし、膀胱部分切除単独群では術後16週に至るまで、膀胱容量およびコンプライアンスはともに、術前値までは回復せず、羊膜およびSISによる膀胱拡大効果が確認された。〔結論〕本実験の結果より、ヒト羊膜は膀胱拡大術に利用しうる組織として特性を有し、その拡大効果はSISと同等と考えられた。移植組織の縮小や、移植片自体が収縮するために必要な神経細胞の分化誘導は不十分という点において今後の検討が必要であるが、羊膜は、その免疫学的特性や扱いやすさから、今後、尿路再建材料としての利用が期待しうる組織と考えられた。
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