プロテインCインヒビター(PCI)は主として肝臓、腎臓、及び精巣、卵巣などの生殖臓器で発現されるセリンプロテアーゼインヒビターで、血漿PCIは、主として抗凝固セリンプロテアーゼの活性化プロテインC(APC)の阻害因子として、尿中PCIは、尿プラスミノゲンアクチベータの阻害因子として、精漿PCIは前立腺特異抗原や精子アクロシンなどの阻害因子として機能する。我々は、これまで、腎臓では主として近位尿細管上皮細胞(Renal proximal tubular epithelial cell : RPTEC)でPCIが発現されること、腎癌及び株化腎癌細胞(両者とも腎近位尿細管上皮細胞由来)ではPCIの発現が著しく低下すること、PCIが種々の癌細胞のin vitroでのマトリゲル浸潤能及びin vivoでの増殖、浸潤・転移を抑制すること、また、そのin vitroにおける浸潤抑制活性はPCIのプロテーゼインヒビター活性に依存し、in vivoにおける増殖、浸潤・転移抑制活性はPCIのプロテアーゼインヒビター活性に依存しないことを明らかにしてきた。そこで、本研究では、PCIによる癌細胞の増殖、浸潤・転移抑制機序の解明を目的として、PCIの血管新生に及ぼす影響に関して、バキュロウィルス発現系を用いて、組換え野生型PCI、プロテアーゼ阻害活性を持たないPCIの354番目のアルギニンをアラニンに変化させたPCI(R354A-PCI)及びプロテアーゼにより分解されたPCIのN末端側断片(NT-PCI)を作製し、検討した。その結果、in vivoラット角膜アッセイでは、野生型PCIと同様にR354A-PCIやNT-PCIに血管新生抑制活性が認められ、またin vitroにおける内皮細胞の管腔形成を指標とした血管新生もまた、野生型PCIと同様にR354A-PCIやNT-PCIにより著しく抑制された。 以上の結果より、in vivoにおけるPCIの癌の増殖、浸潤・転移抑制活性は、その血管新生抑制活性に起因し、それはPCIのプロテアーゼ阻害活性に依存しないことが明らかになった。
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