【目的】過活動膀胱(OAB)の発症には膀胱虚血の関与が示唆されている。我々はこれまでWatanabe Heritable Hyper-Lipidemic rabbit(WHHLウサギ)の下部尿路機能について検討し、24月齢のWHHLウサギでは内腸骨動脈の内腔の狭小化が見られ膀胱虚血の状態にあること、またこのウサギは排尿筋過活動状態にあり、OABの発症メカニズムの検討に有用である可能性を指摘した。本年度の検討ではWHHLウサギにおける排尿筋過活動の発症機序を明白にすることを明らかにするために、膀胱からの神経性および非神経性アセチルコリン(ACh)とATP放出量の変化を観察した。 【対象と方法】16月-20月齢のWHHLウサギ(WHHL群)と同年齢の日本白色家兎(対照群)を用いた。ペントバルビタール麻酔後に賭殺し、膀胱を摘出して、平滑筋条片を作成して、臓器透析用プローブを刺入した後に、筋浴槽内に懸垂固定した。プローブ内をRinger液にて2μ1/minにて還流しつつ、張力変化を等尺性トランスデューサーを用いて記録した。経壁電気刺激時(神経性)および条片をテトロドトキシン存在下にて40mNで伸展した際(非神経性)の透析液をマイクロダイアリシス法にて回収し、AChはHPLC-ECD法にて、ATPはルシフェリン・ルシフェラーゼ法にて濃度を測定した。 【結果】神経性AChおよびATP放出量はWHHL群および対照群ともに周波数依存性に増加した。各周波数においてACh、ATPともにWHHL群では対照群に比較して有意の減少が認められた。非神経性AChおよびATP放出量は伸展張力依存性に両群で増加した。その増加はWHHL群で対照群に比較して有意に高値であった。また、増加率はAChに比較してATPで有意に高かった。 【結論】今回の検討で、高齢のWHHLウサギは神経性AChおよびATP放出量の減少が認められ、これは膀胱遠心性神経の部分的除神経に伴うものと考えられた。また、非神経性AChおよびATPの増加については、これらの因子の増加に伴い知覚C線維が活性化されているものと考えられ、排尿筋過活動の発生に関与している可能性が推察された。また、これは昨年度の検討で確認された、GRP陽性神経の増加との関連も示唆される。今回の結果は、虚血や加齢などに伴うOABの発症過程の一端を明らかにしたものと考えられる。
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