【目的】高分子プロテオミクスによって発見した新規前立腺癌バイオマーカーTT902の臨床的有用性を手術検体の免疫組織染色により検討した。【方法】東京慈恵医大泌尿器科で手術的に摘除された64例の前立腺癌患者を対象にした。手術検体を研究に使用する際には、東京慈恵医科大学倫理委員会で承認された同意文書により、患者本人の承諾を得た。独自に作成した抗TT902抗体を用いて免疫組織染色を行い、染色強度をスコア化した。それぞれの標本で、癌部、HGPIN部、過形成部、正常腺上皮部のスコアを算出した。【結果】TT902はほぼすべての前立腺癌部で発現がみられた。癌部とHGPIN部の発現強度は、過形成部と正常腺上皮部と比較して有意に高値であった(p<0.001)。また、癌部とHGPIN部では癌部のほうが有意に高発現を示した(p<0.001)。癌部でのTT902の発現は、Gleason score、血清PSA値が高いものほど高値を示した(それぞれp=0.032、p=0.013)。既存のマーカーであるAMACRによる免疫組織染色像と比較したところ、TT902が陽性でAMACRが陰性の癌組織や、TT902が陰性でAMACRが陽性の癌組織も散見された。また、TT902とAMACRの多重蛍光染色では、いずれも細胞質に局在しているものの、その分布様式には差が見られた。TT902の遺伝子の発現をin situ hybridizationとRTPCRで確認したところ、前立腺癌細胞でTT902 mRNAの発現が亢進していることを確認した。【結語】新規前立腺癌マーカーTT902の前立腺癌組織での発現を、免疫組織化学的に検討した。TT902は前立腺癌部で高発現を示し、また、Gleason score、血清PSA値が高い検体ほど発現強度が高かった。また、前立腺癌部における遺伝子レベルでの発現の亢進も確認した。
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