1.電気生理学的検討 恥骨後式前立腺全摘除術において、陰茎海綿体神経と尿禁制に関与する神経の同定を試みた。刺激電極は間隔7mmの双極電極を用い、30秒間50mAで刺激を行った。刺激部位は前立腺底部よりのNVB(A)と、その背外側lcmの部位(B)とした。AおよびBにおける陰茎海綿体圧の上昇は9.8±6.3、13.5±7.3cmH20で、有意にBで高値であった(p=0.0240)。AおよびBにおける尿道海綿体圧の上昇は17.0±9.4、11.2±8.OcmH20で、有意にAで高値であった(p=0.0353)。この結果は、「NVBは陰茎海綿体神経のみがbundle状に集簇した構造物ではない」とした、我々の解剖学的知見を、電気生理学的にも裏付ける結果であった。以上の結果から、「骨盤機能に関与する自律神経は従来の概念よりさらに幅広く分布している」、とする新しい自律神経解剖の概念を提唱した。 2.解剖学的検討 骨盤内自律神経に対する免疫組織学的検討は、解剖検体における各抗原性の不安定さが原因で、十分な結果が得られていない。このため、研究は術後尿禁制に関与すると考えられる筋および筋膜解剖にシフトしつつある。特に、尿禁制機構に関与すると考えられる尿道周辺の解剖、すなわち内骨盤筋膜、肛門挙筋筋膜、恥骨前立腺靭帯、恥骨会陰筋、直腸尿道筋、会陰腱中心、会陰横筋群、などの外科解剖を明らかにした。これらの知見から特に、Robotic prostatectomyにおいて、肛門挙筋筋膜、恥骨前立腺靱帯、恥骨会陰筋を温存し、尿道膀胱吻合部を腹側に固定する新しい術式を考案し、その優れた術後尿禁制率を報告した。
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