1.解剖学的検討 機能温存泌尿器科骨盤内手術において、従来、最もcriticalな操作部位はいわゆる神経血管束であるとされてきたが、我々は前立腺尖部背側から膜様部尿道付近にも機能温存において非常に重要な神経線維が分布することを報告してきた。今回、同部位の解剖学的検討を行なった。15体の男性献体を用いた検討の結果、肛門挙筋、直腸および尿道に囲まれた部位には平滑筋組織(直腸尿道筋と呼ぶ)が存在し、この周辺および本筋組織を貫通するように末梢に向かう自律神経線維を認めた。その近傍にはいわゆるperineal bodyと称される線維筋性結節は存在しなかった。20%に直腸尿道筋の非常に発達した献体を認め、実際の前立腺全摘除術における尿道切断においても、このような症例では直腸尿道筋および神経線維を損傷する可能性が示唆された。 2.電気生理学的検討 30例の腹腔鏡下前立腺全摘除術において術中前立腺周辺組織の電気刺激を行ない、陰茎海綿体圧の上昇を測定することで、陰茎海綿体神経の分布を予測した。刺激部位は、(1)前立腺底部神経血管束、(2)前立腺中央部神経血管束、(3)神経血管束の約1cm後外側、(4)前立腺側方(3時付近)、とした。それぞれの部位別圧上昇について比較したところ、(4)で若干低い傾向にあるものの、統計学的には4ヶ所で有意差を認めなかった。次に、(2)の上昇圧を1とし、(1)、(3)、(4)の(2)に対する相対値をもとめ、これが0.7以上の場合、陰茎海綿体神経が密に分布すると仮定した。この結果、陰茎海綿体神経は、Type1;神経血管束に限局して分布、Type2;背側から束状に分布、Type3;神経血管束とその背側に分布、Type4;神経血管束の腹側背側に分布、の4つに分類することが可能であった。
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