ヒト卵巣組織を性同一性障害患者から書面による同意を得て採取した。得られた卵巣組織を実体顕微鏡下に0.5mm角(Cryotop法)または1.0-2.0mm角(DAP法)に細切した。Cryotop法では、平衡液(エチレングリコール(EG)、ジメチルスルホキシド(DMSO)含有)に室温で20分間卵巣組織を浸漬した後、凍結液(EG、DMSO、ショ糖含有)に3分間浸漬してからCryotopに収容し、液体窒素に投入した。DAP法では、DMSOを合むPBI培地に4℃で5分間卵巣組織を浸潰した後、冷却したDAP213液(DMSO、アセトアミド、プロピレングリコール含有)を加えて4℃で5分間処理し、液体窒素に投入した。凍結後融解した卵巣組織を、予め卵巣を部分切除した免疫不全マウス(NOD-SCIDマウス)の卵巣嚢内に移植した。 凍結前の卵巣の厚さ8μmの連続切片を作成し、諸家の報告に従って卵胞数を計測した。更に、卵巣断面を積分して卵巣組織の体積を求め、1mm^3あたりの卵胞数を求めた。 Cryotop法で16症例、DAP法で16症例の卵巣を凍結保存した。性同一性障害者はテストステロン製剤の投与により無月経または稀発月経だったが、23-29歳では62±32(37-98)個/mm^3(平均±標準偏差、最小-最大;以下同じ)、30-37歳では47±43(2-88)個/mm^3、40-44歳では2±2(1-4)個/mm^3の原始卵胞を凍結前の卵巣組織片に認めた。異種移植の4週間後、Cryotop法では12.5%(8個中1個)の組織片が正着したが、DAP法では70.0%(10個中7個)の組織片が生着した(P<0.05)。7個の生着した組織片のうち、4個で卵胞を認めた。 DAP法でガラス化凍結保存したヒト卵巣組織は、卵胞発育能を有することが示唆された。今後は、融解移植後の卵胞の喪失の機序を明らかとして、これを防ぐ手段を講じることが重要であると思われる。
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