胚の浸潤は着床の成立において重要な役割を担っていることが知られてきた。浸潤過程には、タンパク質分解酵素、特にメタロプロテアーゼが関与していることが報告されてきたが、遺伝子欠損マウスの解析から既知の分子については決定的な証拠が得られていない。そこで、本研究では新規メタロプロテアーゼであるADAMTSファミリー遺伝子が胚の浸潤に関与する可能性について検討を進めてきた。浸潤能を有するトロフォブラスト幹細胞を用いた遺伝子発現解析から、ADAMTS15の発現は著しく冗進しており、ADAMTS19の発現は低下していることが明らかとなった。一方、母体生殖器における遺伝子発現解析を行ったところ、いずれの分子も卵巣、卵管、子宮のすべてにおいて発現していることが明らかとなった。いずれのADAMTS分子も分泌型の分子であると推定され、雌性生殖道にはタンパク質が比較的豊富に存在しているものと考えられる。 さらに、トロフォブラストの浸潤作用とガン細胞の浸潤作用でADAMTS分子の役割に相違が認められるかどうか明らかにするため、卵巣由来頼粒膜細胞腫瘍細胞株の細胞特性の解析を進めている。本細胞はin vitroで培養を続けることにより自発的に浸潤能を高めることが明らかとなり、今後ADAMTS15およびADAMTS19の発現がどのように変化するか検討する。 ADAMTS分子の標的分子として、いくつかの細胞外マトリックスが候補として考えられることから、現在、胚および卵管、子宮における細胞外マトリックス発現スクリーニングを行うと同時に、RNAiや遺伝子ノックアウトなどによる遺伝子発現制御を進めている。
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