近年の生活様式の欧米化に伴い、本邦では2015年には年間4万8千人の女性が乳癌に罹患すると予測されている。全乳癌患者の約30%が癌の転移のために死亡するという事実も合せると、乳癌の診断、治療、予防方法の確立は社会的に重要な課題である。現在、ErbB2に対する分子標的薬であるハーセプチンが注目されているが、その効果はErbB2を過剰発現する乳癌に限られていることから、ErbB2と異なる治療標的遺伝子の探索が必要であう。平成19年度は、遺伝子発現プロファイルを利用して、乳癌の新たな標的遺伝子を同定した。 「乳癌で見つかった新規増幅遺伝子の解析」について 35種類のヒト乳癌細胞株を用いて作成した遺伝子発現プロファイルを染色体上にマッピングし、独自に開発したアルゴリズムを用いて11箇所に及ぶ新規の遺伝子増幅部位を発見し、そのアルゴリズムも含めて論文発表した(論文1)。さらに、この中から19番染色体の遺伝子増幅部位を詳細に解析して癌細胞の増殖に関わる遺伝子としてNOTCH3を同定した。乳癌では20-30%にErbB2の過剰発現が見られるが、これがみられない細胞株ではNOTCH3への増殖依存性が示された。このことから、NOTCH3を乳癌の新たな癌遺伝子であるとして論文発表した(論文2)。さらに発現プロファイルを別の角度かち分析して、乳癌細胞株を分類する新たな遺伝子としてFoxA1を同定し、FoxA1発現細胞がFoxA1依存的増殖を示すことを報告した(論文)。現在、NOTCH3、FoxA1以外で遺伝子増幅により過剰発現する遺伝子の機能解析を進めており、新たな癌遺伝子候補が見つかっている。
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