研究課題
基盤研究(C)
我々はヒト羊水中に癌転移を制御する糖蛋白を発見しビクニン(クニッツ型トリプシンインヒビター)と命名し、分子標的癌転移抑制薬として開発している。ホモロジー検索の結果、大豆にもクニッツ型トリプシンインヒビターが大量に含まれていることを発見した。大豆由来ビクニンは内服可能であることが最大の特徴である。大豆ビクニンの分子量は8千ダルトンでビクニン同様クニッツ型の分子構造を有していた。担がん動物を用いた大豆ビクニンの内服実験でがん転移抑制の有効性を実証し論文に発表した。大豆ビクニンは低分子であるため内服にて効果が発揮されるが、大豆からの大量精製には時間と経費を要すること、及び癌細胞への親和性がやや低いことが欠点であった。今回は上記2つの問題点を解決するために以下の3つの目的を設定した。(1)大豆より精製した大豆ビクニンの癌転移抑制効果を確認するためin vitro及びin vivoの実証実験を行う。(2)大豆ビクニン遺伝子を植物(タバコ)葉緑体へ導入する最新技術を利用して大量生産系の確立を目指すための基礎的検討を開始する。(3)平成19年度には、大豆ビクニンの分子構造を「分子軌道法」等の量子論的な手法を駆使したコンピュータ分子シミュレーションにより、さらに高親和性、高選択性のアミノ酸配列に構造変換する。その結果、少量投与で効果が発揮される内服可能な「分子標的抗転移薬」を作成することを目指す。1.大豆ビクニンの大量生産系の確立大豆ホエー成分からイオン交換カラム、ゲルろ過を用いて大豆よりビクニンを大量に精製した。一度に50gほどの精製標品が得られる。電気泳動で分子量8千であることを確認し、95%以上のpurityを示した。2.ビクニンの抗転移作用の実証実験(1)細胞内シグナル伝達ビクニンの細胞内シグナル伝達抑制効果を確認した。そのために、MAPキナーゼのMEK1/2、ERK1/2、p38、JNK、PI3キナーゼ、Aktについてそのリン酸化の抑制程度をWestern blotによるデンシトメトリーで定量した。(5)担がんマウスによる転移抑制効果の実証実験ビクニンの抗転移能を確認するため、ヒト卵巣がん細胞HRAをヌードマウスの腹腔内に移植し、がん性腹膜炎の状態及び転移の状態を比較した結果、ヒトビクニンと大豆ビクニンは同等の癌抑制効果を示した。精製した大豆ビクニンの内服量の検討を行い、有効性のみならず副作用の発現も評価しているところである。
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