研究概要 |
我々はヒト羊水・尿中に癌細胞の浸潤を抑制する物質ビクニンが存在することを報告した。ヒト羊水由来ビクニンは胎児尿由来である。血中にはインターアルファトリプシンインヒビターが0.5mg/mlの濃度で存在する。これは重鎖2本と軽鎖1本より構成されているが、この軽鎖がビクニンに相当するたん白質である。ビクニン遺伝子を欠失させるとインターアルファトリプシンインヒビターの産生、分泌も阻害される。ビクニンの生理活性を検討するためにヒト卵巣癌細胞HRAにビクニンを添加したり、ビクニン遺伝子を導入すると、Src,ERK1/2,Aktの活性化が抑制され、結果としてサイトカイン産生やウロキナーゼなどのプロテアーゼ産生が抑制されることにより、炎症反応が阻止されることが知られている。同時に癌細胞の浸潤・転移も抑制される。 ヒト尿由来ビクニンはクニッツ構造を有する糖蛋白であり、がん転移抑制効果を有している生理物質である。ビクニンは癌細胞からの転移関連酵素であるウロキナーゼおよびその受容体の発現を抑制することができる。そこで今回は大豆にもクニッツ構造が確認できたのでこの物質(SKI)の作用をビクニンと比較した。使用した培養癌細胞はヒト卵巣癌細胞HRAとSKOV-3で、転移促進活性を促すためにサイトカインであるTGF-betaを添加した。SKIはTGF-beta添加によるウロキナーゼ産生を濃度依存性に抑制した。SKIはuPARの細胞内発現も抑制した。SKIの作用機序はMAPキナーゼのERKおよびp38のリン酸化を抑制することにより、NF-kBの核内転写を制御したためにウロキナーゼおよびその受容体の産生が抑制されたのである。将来のMAPキナーゼをターゲットにしたがん転移抑制薬として有望である。植物由来ビクニンにも癌転移抑制活性が確認できた。
|