研究概要 |
我が国は高齢社会を向かえ,successful agingを目指した医療の重要性が増している。女性の骨盤内の膀胱,尿道,膣,直腸,会陰は内骨盤筋膜によって結合し、排尿・排便機能、生殖器の機能は解剖学的、生理学的に連動している。骨盤底内臓器の機能障害は分娩、ホルモン低下、生活習慣病などによって骨盤底筋および筋膜構造の弛緩をきたし、下垂、過可動、脱出によって発症することが知られる。骨盤底臓器の支持異常は多くの症例では閉経後、エストロゲンの分泌低下に伴って徐々に進行する。これは物理的な筋膜線維の突発的な断裂よりむしろ、筋膜、筋肉組織の脆弱化が時間をかけて進行する。筋膜や筋肉の時間をかけた脆弱化は尿道、膀胱頸部、膣壁などに分布する末梢神経が分娩時による長時間の圧迫、挫滅、牽引が引き金となっていることが推察される。本研究では骨盤底弛緩における症状と膣壁、尿道、膀胱への末梢神経系の損傷とその再生の状態の関係を検討し病態の予測、観血的治療法の選択法を開発することを目的とした。2年間の研究において骨盤底臓器の解剖学的支持にもっとも重要な位置にある膣壁周囲の結合織並びに神経組織の特異な構造を明らかにすることができた。免疫組織化学的に同定された前膣壁に神経線維は従来報告されている骨盤神経系の線維束より内側に存在し、膀胱頸部から尿道に向かって走行し、尿道支持機能に重要な役割を担っていた。本神経束がS-100、TH抗体で染色される節後性交感神経で骨盤神経叢の頭側から生じ、尿道平滑筋に連続する神経束であることも明らかとなった。さらに後膣壁の筋膜構造に関して、直腸と膣の間に存在する筋膜構造、直腸膣筋膜と連続する会陰腱中心の結合組織の連結構造に新たな知見を見いだした。これらの研究成果は、骨盤底再建外科手術法開発の重要な基礎解剖のデータとして利用されると考えられる。
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