研究概要 |
1. デジタル顕微鏡による茸状乳頭数のカウント 中耳手術前の電気味覚検査閾値が8dB以下の正常値を示し、手術中に鼓索神経が切断された後、2年以上電気味覚検査が施行できた87例において、最終閾値が8dB以下の正常値に回復したのは19例(22%)、10〜20dBが8例(9%)、22〜34dBが17例(20%)、測定不能が43例(50%)であった。これら87例中、最終検査時に舌の鼓索神経固有領域表面をデジタル顕微鏡で撮影できたのは54例であったが、単位面積(1cm^2)あたりの茸状乳頭数を神経切断側と対側(健側)で比較したところ、電気味覚検査閾値が8dB以下に回復した16例では、健側で12.9±4.9個、切断側で10±4.1個の茸状乳頭が観察された。一方、閾値が16dB以上の切断側ではほとんどの症例で茸状乳頭が観察されなかった。以上の結果より、電気味覚検査閾値が正常範囲に回復した症例においては、再生した鼓索神経線維が茸状乳頭まで到達して茸状乳頭の形態が保持されたと考えられるが、閾値が16dB以上の症例では三叉神経が電気刺激されただけであり、鼓索神経線維は再生していないであろうと推測された。 2. 再生した茸状乳頭における超微細構造の検討 鼓索神経が切断され、術後に電気味覚検査閾値が8dB以下に回復した3症例において、切断側の鼓索神経固有領域の舌組織を一部切除し、切除試料内の茸状乳頭を光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いて観察した。計11個の茸状乳頭が採取でき、光顕レベルではこのうち7個に味蕾様構造が確認できた。電顕レベルでは、味蕾様構造の内部にI型,II型,III型細胞と基底細胞の特徴を備える細胞が確認され、III型細胞に終末する神経線維も見られた。神経終末内部にはミトコンドリア,小型淡明小胞,小型有芯小胞,大型有芯小胞が観察された。この神経線維はIII型細胞の核周囲領域や細胞基底部に終末し、神経終末側には後シナプス膜肥厚が観察された。一方、III型細胞内部には小型淡明小胞と大型有芯小胞が観察されたことから、両者は非対称シナプス(asymmetric synapse)を形成していると考えられた。
|