本研究は、好酸球性副鼻腔炎に対するステロイド製剤の有効性に関する基礎的・臨床的なエビデンスの構築を目的としている。具体的には、1)ヒト副鼻腔粘膜におけるステロイド受容体(GR)の発現と分布を分子生物学的に観察し、本製剤が副鼻腔炎に対して有する抗炎症効果について解析を行なう。2)ステロイドと受容体の複合体による細胞内転写因子の制御機構の解析を行なう。3)好酸球性副鼻腔炎症例に対して、外用ステロイド製剤の直接噴霧療法を試み、実際の臨床効果を検討するとともに、局所粘膜におけるGRの発現とサブタイプ比率の変化、との関連性について解析を行なう、などの点を目的としている。 本年度の研究成果としては、 1)副鼻腔炎粘膜の病理組織学的観察とGRの発現の解析:慢性副鼻腔炎の鼻茸・篩骨桐粘膜において、好酸球浸潤の有無とその程度を病理組織学的に検討し、同時にGRに関しては活性型のα typeと不活型のβ typeのそれぞれについても解析した。その結果、GR αの発現は浸潤炎症細胞、上皮や血管内皮などの構成細胞、などに観察された。一方GR βの発現は主として炎症細胞において確認され、好酸球性副鼻腔炎における分布密度は篩骨桐>上顎洞の傾向が観察された。さらに細胞内転写因子の制御機構を介した、局所サイトカイン・ネットワークとの関連性を検討したが、ステロイドの使用効果により好酸球関連サイトカイン、受容体発現の低下が観察された。 2)GR複合体と転写因子活性化の制御機構の解析:ヒト培養副鼻腔上皮細胞を用い、合成ステロイド製剤が転写因子活性化に及ぼす抑制効果をin vitro下に検討した。さらに細菌毒素成分であるLPS、PGNなどの刺激に対する培養上皮細胞の応答を、細胞表面におけるTLRの発現とサイトカイン産生能を指標として検討し、ステロイド製剤の有効性について考察を行った。
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