研究概要 |
当科で樹立した頭頸部扁平上皮癌細胞株では腫瘍増殖を最も担うEGFRの発現が強弱はあるものの16種全てに認められた。EGFR-tyrosine kinase inhibitor(TKI)の感受性に関連するExon19,21のmutation は16種全ての細胞で観察されなかった。さらにEGFRの遺伝子変異を解析したところ、tyrosine kinase domainのexon20にのみヘテロのsilent mutationが検出された。Exon20がwild typeの細胞とexon20にヘテロのsilent mutationのある細胞でEGFRのタンパク発現レベルおよびEGFR-TKIの一つであるgefitinibに対するIC50値を比較したところタンパクの発現レベルに有意な差はなかったが、IC50値はwild typeと比較してmutationのある細胞群で有意に低値であった。すなわちこのexon20のmutationがEGFR-TKIに対する頭頸部扁平上皮癌の感受性を規定していると考えられた。また、EGFRとheterodimerを形成し、増殖に働くHER2の発現をウエスタンブロットにて検討したところ、全ての細胞株においてHER2が発現していた。しかしHER2阻害作用をもつ抗体であるherceptin単独処理によっては16種の全ての癌細胞株に対して抗腫瘍効果はほとんどみられなかった。そこで、頭頸部扁平上皮癌細胞に対するgefitinibとherceptinとの併用効果について検討した。頭頸部扁平上皮癌細胞に対するherceptin単独の抗腫瘍効果は非常に弱いが、gefitinibと併用することにより16株中6株で抗腫瘍効果が増強した。すなわち頭頸部扁平上皮癌細胞ではHER2がEGFRとheterodimerを形成し、下流へとシグナルが伝達することが示唆された。一方、頭頸部扁平上皮癌細胞株は種々の増殖・血管新生因子を産生していた。このためEGFR阻害だけでは腫瘍の活性を十分には阻害できないと考え,VEGF抗体であるbevacizumab単独、また化学療法剤との併用、さらにEGFR阻害作用とVEGF阻害作用を併せ持つagent(ZD6474)に注目し、単独また化学療法剤を併用してその抗腫瘍性をin vivoで検討した。その結果いずれも高い抗腫瘍性を示し、特に化学療法剤との併用では腫瘍の完全消失の可能性が示唆された。
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