研究概要 |
ニューロペプチドのGalanin(GAL)の受容体(GALRs)は,GALR1,GALR2,GALR3の3つが知られており、それぞれ異なった役割をもつことが予想される.私共のこれまでの研究ではGALR1が癌抑制遺伝子である可能性が示唆されているが,GALRsの機能や情報伝達経路は未だ解明されていない.今回,私共はGALR1の機能を解析するために,GALR1のC末端にHAタグを付加したGALRIHAとGreen Fluorescent Protein(GFP)を共発現するプラスミドを作成し頭頸部癌細胞株に遺伝子導入した.その後,GFPを選択マーカーとしGALR1を発現する安定細胞株を樹立した.この細胞株をGALで刺激するとGALの濃度および刺激時間依存性に細胞増殖が抑制された.更に,これらの細胞のBrdUの取り込みおよびカスパーゼ3の活性化を観察するとGALによりBrdUの取り込みは低下するもののカスパーゼ3の活性化は促進しなかった.これらの結果は,GALR1は頭頸部癌では癌抑制性に働き,その機序はアポトーシスの誘導よりむしろ細胞周期を停止させることによると考えた. 次に,GALR1の情報伝達経路を解明するために樹立したGALRIHA発現細胞株をGALで刺激するとコントロールに比べExtracellular Signal Regulated Kinase(Erk)が約15倍と有意に活性化され長期に持続した.一方で,phosphatidylinositol3-kinase(PI3K)経路に属するAktやp70の活性化には有意な差を認めなかった.更に,これらの伝達系とGALR1の機能との関係を知るためにGi蛋白の特異的阻害剤(PTX),Erkの特異的阻害剤(UO126),PI3K経路の特異的阻害剤(LY294002)で前処置した後GAL刺激によるGALR1の細胞増殖抑制効果を検討するとPTX,UO126ではGALの効果が抑制される一方で,LY294002では抑制されなかった.以上の結果はGALR1が頭頸部癌においてはPI3K経路ではなく,Gi蛋白からErk活性化する経路を介して情報を伝達し,細胞周期を停止させることにより癌抑制性に働くことを示唆する.
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