前庭神経炎や聴神経腫瘍の術後に、めまいが続く原因として前庭反射の異常が挙げられる。virtual reality(仮想現実:VR)は感覚入力をコントロールできるので、前庭入力と視覚入力のバランスを変えることにより障害側の前庭動眼反射および前庭脊髄反射の可塑的変化を促進し、前庭代償を促せる可能性がある。平成18年度には、VR装置CAVE内でランダムドットテクスチャをマッピングさせた環境を構成した。前庭機能に左右差のない現実に近い状態(Control)およびVR環境下で前庭機能に左右差のある空間(視覚入力調整)の二つの環境を作り出すことができた。視覚入力調整環境では、被験者が前後方向に移動する際にVR空間は右にスライドするように調整されている。これは前庭動眼反射に左右差があると、動きや頭部運動にともなう眼球運動の追随が十分でなく、一方向に視線が流れることを模したものである。この環境に適応が起これば正常被験者において前庭代償類似の変化が生じ、実験前後に前庭動眼反射および脊髄反射の利得の左右差が起こってくるはずである。被験者に行ってもらうタスクは、CAVE内で前方のランダムな位置に球指標を呈示し、指標が消えると、被験者はその位置まで歩き、再度同じ位置に球指標が呈示されるともとの位置まで後退してもどる、というものとした。その実験の過程で、被験者に有意な自律神経反応が生じないか測定した。被験者にはVR環境下では交感神経の有意な興奮が認められたが、嘔吐や転倒などの危険な症状は認められなかった。この結果はThe 6th Congress of the Federation of Asian and Oceanian Physiological Societies、第84回日本生理学会大会で報告し、また論文を作成した。
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