前庭神経炎や聴神経腫瘍の術後に、めまいが続く原因として前庭反射の異常が挙げられる。Virtual reality(仮想現実:VR)は感覚入力をコントロールできるので、前庭入力と視覚入力のバランスを変えることにより障害側の前庭動眼反射および前庭脊髄反射の可塑的変化を促進し、前庭代償を促せる可能性がある。平成18年度には、VR装置CAVE内でランダムドットテクスチャをマッピングさせた環境を構成した。平成19年度には、この環境下で正常被験者の眼球運動および歩行の変化を観察し、変化およびその適応仮定を検討した。被験者はVR空間内に入る前に、前後方向の歩行のトレーニングを行った。続いて、VR環境下で20分間同様の歩行を行った。VR環境下では、VR装置であるCAVE内で被験者が前後方向に動くと、投影される背景はその移動距離と同じ距離右方向に移動する。この環境下で眼球運動および歩行偏位を記録した。結果として、正常空間では歩行偏位および眼振は認められなかった。VR環境下では、左向き急速相の視運動性眼振および右方向の歩行偏位が連続して観察された。VR環境下の後半5分では前半5分に比較して眼振緩徐相速度および歩行偏位いずれも有意に増加した。20分間の短いVR環境下であっても、被験者の眼振緩徐相速度および歩行偏位がその間に有意に増加したことから、この環境下で何らかの適応現象が起こったと考えられた。この環境をさらに発展させることによってめまい患者の前庭代償を促進できる可能性があると考えられた。
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