「研究の目的」:蝸牛外側壁線維細胞は、内耳のイオン環境を維持するために重要な役割を果たし、タイプI-Vまでの5つのタイプに分類されることが知られているが、個々の細胞機能に関して、定義づけがなされていない。これまでに当研究室の急性難聴モデル動物の組織学的解析により、タイプIIがエネルギー不全薬剤に対しては高感受性であることが証明されている。本研究ではフローサイトメトリー(FACS)の手法を駆使し、表面抗原の特異性により分離し、各細胞タイプの機能特異性を解明することを目的とする。このようなタイプ別線維細胞の性状および機能解析を行うことにより、蝸牛外側壁のアポトーシスの制御因子ならびに細胞傷害後の細胞増殖因子の検索が可能となる。将来的にはタイプ別蝸牛外側壁線維細胞の培養系を確立することにより、in vitroおよびin vivo両者からの研究アプローチが容易になり、蝸牛外側壁線維細胞傷害による難聴の研究に大きく寄与するものと期待される。 「研究実施計画」: 1.成熟マウス外側壁線維細胞のタイプ別初代培養法の確立 全タイプを含む成熟マウス蝸牛外側壁線維細胞より、タイプ別線維細胞をFACSにより分取を試みた。蝸牛外側壁線維細胞特異的表面マーカーが既存のもので1つしか見つからず、当初計画予定であった5つの細胞タイプ別に分取し、細胞タイプ別の培養系の確立にまで至らなかった。 2.蝸牛外側壁線維細胞に対する分子治療法の開発 1.で細胞タイプ別の培養系が立ち上がらなかったため、in vitroで蝸牛線維細胞傷害薬剤添加による各タイプ別細胞傷害の経過をTUNEL法ならびにアポトーシス関連因子を指標に観察するまでには至っていない。また細胞特異的機能に重要な役割を果たすと考えられる遺伝子発現量の測定により有意な発現変化が認められた場合、蝸牛線維細胞傷害による難聴の原因遺伝子としての可能性が高まる。この遺伝子導入もしくはsiRNA法による遺伝子発現抑制による細胞傷害効果の緩和の有無、さらに同遺伝子の転写調節領域の塩基配列より発現制御機構の予想と既存の報告を検討し、転写促進または抑制因子を検索することを予定していた。これらの因子の検索は、今後蝸牛外側壁の傷害を起因とする難聴の誘発を抑制し、回復を促進するような新規薬剤の開発につながるものと期待されるが、実際の各タイプ別線維細胞の培養が滞ってしまったため、2.で予定していた研究計画の遂行には至らなかった。
|