抗甲状腺剤メチマゾールをSprague-Dawleyラットに腹腔内投与し、誘発される嗅細胞障害の機序を解析した。以下の4群を検討した。 群1 PBS投与30分後に、PBSを投与。 群2 PBS投与30分後に、300mg/kgのメチマゾール・PBS溶液を投与。 群3 9mg/kgのカスパーゼ-3阻害剤(Ac-DEVD-CHO)・PBS溶液投与30分後に、同様のメチマゾール溶液を投与。 群4 9.6mg/kgのカスパーゼ-3阻害剤(Ac-LEHD-CHO)・PBS溶液投与30分後に、同様のメチマゾール溶液を投与。 投与1日後に、各群6匹のラットから鼻腔組織のホルマリン固定・パラフィン包埋冠状断切片を作成し、抗活性化カスパーゼ-3抗体・抗活性化カスバーゼ-9抗体・抗活性化カスパーゼ-8抗体による免疫染色、TUNEL染色を行った。また、投与1日後に各群6匹のラットから未固定の鼻腔組織を採取し、ウエスタンブロットによる細胞質分画中のチトクロームcの定量を行った。 抗活性化カスパーゼ-3抗体・抗活性化カスパーゼ-9抗体による免疫染色とTUNEL染色では群2のみで剥離細胞に一致して染色性の亢進を認めたが、その他の群では染色性に有意差はなかった。抗活性化カスパーゼ-8抗体よる免疫染色では全ての群間で染色性に有意差は認められなかった。 細胞質分画のチトクロームcは群1と比較して群2、3、4では増加していた。また、群2、3、4間では有意な差はなかった。 以上の結果より、メチマゾールによる嗅細胞障害は細胞質へのチトクロムcの放出→カスパーゼ-9の活性化→カスパーゼ-3の活性化の経路で誘発されるアポトーシス優位に生じていることが示唆された。さらにカスパーゼ-3阻害剤、カスパーゼ-9阻害剤投与により嗅細胞障害が抑制されたことから、カスパーゼ阻害剤による急性期の薬剤性嗅覚障害の新たな治療法の可能性が示唆された。
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