平成18年度の研究で抗甲状腺剤メチマゾール腹腔内投与によって生じる嗅細胞障害がチトクロームc・カスパーゼー9・カスパーゼー3の活性化によって生じるアポトーシスによってもたらされており、カスパーゼー9やカスパーゼー3阻害剤投与で嗅細胞障害が抑制されることを証明した。平成19年度は、この実験系を用いてさらに上流のチトクロームcの作用を阻害することで嗅細胞障害がより効率的に抑制されるか否かを検討した。阻害剤としてPTD-FNKを用いた。PTDはHIVウイルスのtat遺伝子でコードされるprotein transduction domainでこれと結合した蛋白は、その分子量にかかわらず効率的に細胞内に移行することができる。FNKは強いBal-xl活性を有し、チトクロームcのミトコンドリアからの放出を抑制する蛋白である。メチマゾール300mg/kgを腹腔内投与後、30分後にPTD-FNKを2mg/kg、4mg/kg腹腔内投与した。コントロール群そしてメチマゾール300mg/kgを腹腔内投写後、30分後に等量のPBSを腹腔内投与した。嗅細胞障害が最も顕著となる投与24時間後に鼻腔組織を採取し、ホルマリン固宗した。パラフィン包埋冠状断切片を作成し、ヘマトキシリンーエオジシ染色、TUNEL染色、抗活性化カスパーゼー3抗体による免疫染色を施行し、形態学的変化おなびアポトーシスの程度を検討した。 形態学的には用量依存性にPTD-FNK投与によって嗅上皮随害が抑制された。また、アポトーシスの程度も用量依存性に抑制された。このことから、PTD-FNKの全身投与は一部の嗅細胞障害モデルにおいて、細胞障害を抑制する上で有用であることが示された。
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