多治見スタディの結果、日本人の緑内障の中で正常眼圧緑内障の占める割合が非常に高いことが報告された。日本人の失明原因のトップを占める緑内障の治療を考える場合に、正常眼圧緑内障の治療方針の決定は益々重要になってきている。緑内障の治療は一般的に眼圧下降療法が行われるが、正常眼圧緑内障の眼圧下降は技術的に困難であることが多い。眼圧下降以外の緑内障治療として癌血流改善が注目されているが、近年眼血流を測定できる様々な機器が開発され、緑内障治療点眼薬の血流に対する効果が検討されている。我々は緑内障治療点眼薬の眼血流に対する作用機序を検討した。今回我々が検討した緑内障治療薬の血管作用は、血管を高カリウム溶液で収縮させた状態でこれらの薬剤を投与した際に、どの程度の弛緩作用を持っているかで評価した。 今回は眼循環に作用するとされるβ遮断薬levobunololの血管弛緩機序について薬理学的検討を行った。屠殺した白色家兎から眼球を摘出し、視神経と並行して走る毛様動脈を摘出し、血管を微小血管収縮測定装置Myograph System(J.P.Tranding社.デンマーク)に固定し、薬剤に対する効果を調べた。さらにそのメカニズムを調べるため蛍光Ca指示薬であるFura-2を用い、ヒト培養大動脈血管平滑筋細胞内Ca濃度をAquacosmos systemを用いて測定した。Levobundolは、高K溶液、1μM histamine、10μM phenylephrineあるいは100nM endothelin-1で収縮させた毛様動脈を濃度依存性に兎緩させた。外液のカルシウムを除去した無Ca溶液中で起こるHistamine収縮をLevobunololは抑制したが、無Ca溶液中で起こるHistamineによる細胞内Ca上昇に対しては抑制を示さなかった。Levobunololは濃度依存性に毛様動脈を弛緩させ、血流改善作用があることが予想された。血管地緩機序としては細胞外Caに依存しない成分とCa感受性に対する作用が示唆された。新しいプロスタグランディン製剤であるタフルプロストの血管弛緩作用も今回初めて見出された。この薬剤の血管弛緩は細胞外のCa流入阻害によると考えられた。 正常眼圧緑内障の治療において、既存の緑内障治療薬は眼圧下降という目的からは十分な効果は持っていない。このような薬剤の眼血流に対する効果はこの意味から臨床上重要と思われる。
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