研究概要 |
重症ドライアイの原因として、Stevens-Johnson症候群、眼類天疱瘡、角膜化学外傷などが挙げられる。これらの疾患の治療として、近年になって、培養自己口腔粘膜上皮シート移植の有効性がわが国を中心として報告されている。 今回、我々は、培養口腔粘膜上皮シートに発現する膜型ムチンについて、正常ボランティアから採取した口腔粘膜上皮をもちいて培養シートを作成し、検討を行った。Real time PCRをもちいてmRNAレベルの検討と、膜型ムチン抗体をもちいた蛋白レベルでの組織での検討を行ったところ、興味深いことに、組織における口腔粘膜上皮は、膜型ムチンを発現しておらず、RT-PCRにてmRNAレベルでわずかにみられるのみであったが、シート化した培養口腔粘膜上皮は、膜型ムチンであるMUC1,MUC4,MUC16の発現がmRNAおよび蛋白レベルで発現しており、その発現は最表層細胞のapical側に特異的にみられ、口腔シートと角膜上皮における発現パターンは一致していた。 以前より、膜型ムチンは、上皮細胞のapical側に存在するmicorvilliの先端に発現していると考えられている。今回行った走査型電子顕微鏡における検討では、口腔粘膜上皮組織に比べて培養口腔粘膜シートの方が、microvilliの密度や大きさが有意に増加しており、膜型ムチンの発現は、これらmicorvilliの発現量の差と関連している可能性が示唆された。 膜型ムチンの発現パターンが口腔粘膜上皮シートと角膜上皮シートにおいて一致していることは、異所性の組織である培養口腔粘膜上皮が角膜上皮疾患の治療として、角膜上皮と同様な働きを眼表面で行っており、この移植方法が有効であることの理由の一つであると考える。
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