スティーブンスジョンソン症候群や眼類天疱蒼などの重症オキュラーサーフェス疾患においては、角膜上皮の幹細胞が障害され、正常な角膜上皮で眼表面を覆うことができないため、著しい視力低下をきたす。我々は、正常ボランティアから採取した口腔粘膜組織をもちいて、口腔粘膜シートの解析を行ってきた。口腔粘膜組織および培養口腔粘膜シートは豊富な微絨毛(microvilli/microplicae)で覆われていることが走査型電子顕微鏡で明らかになった。培養口腔粘膜上皮シートは、培養角膜上皮シートと形態学的に類似しており、両者は同様の膜型ムチンの発現パターンを呈することが明らかになった。このことは、もともと角膜とは異なった組織である口腔粘膜を培養して角膜に移植しても、長期にわたって健常な眼表面を維持できることの理由の一つに挙げられると思われる。 また、膜型ムチンMUC16の発現であるが、培養口腔粘膜上皮シートにおいては口腔粘膜組織にくらべてMUC16mRNAの発現が有意に上昇していた。免疫組織学的検討にてタンパクレベルでも同様の結果が得られ、口腔粘膜組織ではMUC16の発現がほとんど見られないのに対し、培養して重層化した口腔粘膜上皮シートを作成すると、MUC16は重層化した上皮の最表層に発現していることが明らかになった。培養により本来発現していないムチン発現が上昇する理由として、1)培養過程における何らかの因子が口腔粘膜上皮のMUC16発現を賦活化し発現を増加させた、2)通常の口腔組織においては何らかの因子がMUC16の発現を抑制しており、in vitroの状態にすると抑制が解除されて発現が増加した、といった可能性が考えられる。本研究は、眼表面におけるMUC16の発現を調節する因子を解明するためのヒントになると思われ、今後の検討課題にしたいと考える。
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