光電変換色素をポリエチレン・フィルムに結合した人工網膜(岡山大学方式人工網膜)の試作品は、網膜神経細胞や網膜組織を刺激し、人工網膜として機能することを示してきた。この研究では、人工網膜の機能と安全性について検討した。人工網膜表面に培養した網膜神経細胞は、光刺激に反応して、細胞内カルシウムイオンの上昇をきたすことを明らかにした。また、素材として、ポリエチレン・フィルムの結晶状態を変えると、グリア細胞が付着しにくい人工網膜を作成することが可能になった。安全性としては、人工網膜の素材として使っている光電変換色素は、光照射下でも網膜神経細胞や網膜色素上皮細胞に対して毒性がないことを証明した。また、人工網膜をラット眼球の網膜下へ埋め込む手術方法を開発し、その組織反応を調べた。その結果、グリアの増殖反応はみられるが、網膜神経細胞に対しては悪影響を及ぼさないことが判明した。網膜色素変性症のモデルラット(RCSラット)の眼球内の網膜下に人工網膜を埋め込むと、失明状態から視覚を回復させることを、ラットの行動実験から明らかにした。
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