研究概要 |
ATMは毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia)の原因遺伝子であるAtm(ataxia telangiectasia mutated)の遺伝子産物であり、DNA複製・修復に関与するプロテインキナーゼの一つである。Atm遺伝子は1995年にクローニングされ、ヒトでは全長約150kbで66個のエクソンからなる巨大な遺伝子である。ATMは細胞周期チェックポイント機能を有し、DNA障害をうけた細胞の細胞周期を停止させDNA修復のための時間をっくる。また毛細血管拡張性運動失調症患者では高頻度にリンパ系腫瘍などの悪性腫瘍の発症を認め、腫瘍細胞にAtm遺伝子の変異や欠損が見いだされている。Atm遺伝子変異を有する腫瘍細胞ではDNA修復機能が傷害されており、ATMの機能消失が発ガンと関連することが示唆されている。最近、ATMは造血幹細胞において酸化ストレスを抑制することで幹細胞の自己複製能の維持に寄与することがAtmノックアウトマウスを用いた解析で明らかになった(Ito K, et al.Nature 2004,997-1002)。Atmノックアウトマウスは早期老化症や発ガンの亢進、免疫不全などが観察される。そこでATMを適正に制御することにより老化、酸化ストレスといった加齢黄斑変性の背景となる病態を制御できる可能性が示唆される。我々はConcanavalin A(Con A)レクチンによる灌流ラベル法を用いてC57BL/6正常マウスと比較してAtm+/-マウス及びAtm-/-マウスにおいて網膜血管白血球接着が亢進している事を明らかにした。今後も、網膜血管新生、脈絡膜血管新生、網膜炎症の各モデルを作成し、血管新生、炎症の程度を検討するとともにそのメカニズムに酸化ストレスがどう関わっているか検討していく予定である。
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