われわれの研究グループは、毛包由来培養細胞移植による毛髪再生医療を究極的な目標として研究している。本研究課題の目的は、これまでわれわれが経験してきた3次元培養皮膚モデルを応用して、ヒト細胞を用いたin vitro毛包再生モデルを新たに開発し、特定の条件操作を加えて分析することにより、ヒト毛包再生にまつわる分子基盤・細胞間相互作用について研究することである。今年度、まずわれわれは毛包由来細胞のうちの2系統である毛乳頭細胞と角化細胞を混合培養することにより、毛包を3次元的に模倣した構造を作成することを試みた。細胞数、培養期間、培地、培養器について特定の条件のもとで培養するとこの擬似毛包は球体(スフィア)を形成した。このスフィアはin vitroにおいて顕微鏡下に経時的観察可能であり、in vivoへの移植も可能であった。このスフィアにおいて毛包誘導であるWnt10bが発現していることが示され、この発現を増強する因子の検索を行ったところ、特定の有望な候補物質を見出すことができた。このようなin vitro毛包再生モデルを開発することにより、従前のin vivoモデルでは不可能(または多大な労力が必要)であった、毛包再生にまつわる遺伝子・蛋白レベルの解析や、移植細胞の遊走・分化についての詳細な観察がさらに進展する見込みが得られた。
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