神経移植時に遠位で端側神経縫合を行なうと、本来は生じないとされる二重神経支配などの可能性がある。我々は、端側神経縫合による二つのルートからの再生神経を促すようなモデルを用い、二重神経支配の可能性と、適切な時期についても検討した。方法として、ラットの坐骨神経を採取し、右正中神経から左正中神経に交叉神経移植を行なうモデルを作成した。左右の正中神経とは端側縫合を行い、左正中神経は端側縫合部より近位で切断した。一回目の実験系では、左正中神経を切断したままの群(I群)と直ちに再縫合を行う群(II群)に分け、電気生理学的検査、組織学的検査、乾燥筋重量の比較、神経トレーサーを用いた縫合部の観察等を行い検討した。結果としては、乾燥筋重量、左正中神経遠位部の神経線維数は両群に有意差を認めなかった。電気生理学的検査ではH群における二重神経支配が示唆された。また、縫合部における両ルートからの再生神経を観察しえた。これにより、神経移植による、筋肉への二重神経支配の存在が示唆された。二回目の実験系では、適切な縫合時期を検討することとして、同様のラットモデルにおいて、切断した左正中神経を縫合する時期を変えて検討した。具体的には縫合時期を初回手術から2週間、4週間、6週問の3群に分け、初回手術から60日後に活動電位及び筋電図を測定し神経再生の有無を確認した。また移植神経、左正中神経(遠位及び近位)を採取、再生神経の形態観察を光学顕微鏡下で行った。また、前腕屈筋群の乾筋重量を測定しその左右差について評価した。結果は全群の全例で活動電位、筋電図が得られた。乾燥筋重量の左/右比は2週モデル、4週モデル、6週モデルの順に数値が下降していた。この実験より、移植神経の遠位部で端側神経縫合を行なう際には、一つのルートからの再神経支配が完成する前の、より早い時期に行なうことが望ましいと考えられた。
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